建築

記憶の継承 ― 建築の歴史と魅力

  • 弘前積みレンガ工法

    Photo: Naoya Hatakeyama

    弘前積みレンガ工法

    来館者を迎えるエントランスは、煉瓦が互い違いに積まれ、上部にはアーチを描き、外から中に入口に押し込むような形状をしている。建築家・田根剛はこの独自の積み方を「弘前積みレンガ工法」と名付けた。この複雑な構造は、熟練の煉瓦積み職人によって完成された。かまくらのような形は、雨や雪を防ぐ屋根の機能を果たし、来館者をあたたかく迎え入れる。

  • 未来に繋げる「延築」

    Photo: Naoya Hatakeyama

    未来に繋げる「延築」

    弘前れんが倉庫美術館は、明治・大正期に建設された煉瓦造の建物を約2年の改修工事を経て再生させている。耐震性能を高めつつ、残せるのものは可能な限り残す「記憶の継承」をコンセプトとし、建築家・田根剛が建築設計を担った。既存の煉瓦壁を保存するため、煉瓦壁の内部に高さ9mのPC鋼棒を串刺しにする工法が採用されている。館内にはコールタールの壁面のほか、古い階段、木造の壁など各所に建物の記憶が残されており、建築を過去と対話しながら未来へつなぐ「延築」を実践している。

  • 時代の異なる煉瓦

    Photo: Naoya Hatakeyama

    時代の異なる煉瓦

    明治・大正期の建設当時、福島藤助は弘前市の小栗山に煉瓦工場をつくり、そこで製造した煉瓦を運んだとされる。その後、何度か増改築もされており、美術館への改修工事中には岩手県で製造された煉瓦も発見された。壁の補修やエントランスに使われている新しい煉瓦は、北海道江別市の工場で製造されたものである。焼きムラを調整するほか、積んだ煉瓦に墨を塗ったり、積み方をあえてやや不揃いにするなど、新旧の煉瓦が調和するよう工夫されている。エントランスやライブラリー、受付付近の階段部分などは、改修にあたり白い漆喰の内壁を剥がし、建設当時の煉瓦を露わにしている。

  • 建築基礎データ

    Photo: Naoya Hatakeyama

    建築基礎データ

    美術館棟

    主要用途 美術館
    建主 弘前芸術創造株式会社
    設計・監理 建築設計 Atelier Tsuyoshi Tane Architects
    田根剛
    設計統括 NTTファシリティーズ
    NTTファシリティーズ東北
    構造設計 大林組
    スターツCAM
    設備設計 森村設計
    設計協力・照明設計 岡安泉照明設計事務所
    施工 建築 スターツCAM・大林組・南建設共同企業体
    設備 ユアテック
    煉瓦工事 リケ、高山煉瓦建築デザイン
    規模 敷地面積 3,606.75㎡(カフェ・ショップ棟・公園含む:11,539.07㎡)
    建築面積 1,693.78㎡
    延床面積 3,089.59㎡
    建蔽率 46.97%(許容90%)
    容積率 85.67%(許容400%)
    各床面積 展示室1・4/250㎡、展示室2/210㎡、展示室3/287㎡、展示室5/227㎡、受付・市民ギャラリー/165㎡、
    スタジオA/22㎡、スタジオB/72㎡、スタジオC/12㎡、
    ライブラリー/300㎡
    階数 地上2階
    最高高 15,630㎜
    軒高 9,250㎜
    階高 A棟:1階 5,450㎜ / 2階 2,775㎜
    B棟:1階 5,450㎜ / 2階 3,610㎜
    天 井 高 2,700㎜~15,100㎜
    工期 設計期間 2017年7月〜2018年3月
    施+B17工期間 2018年5月着工 2020年2月竣工
    開館 2020年4月11日
    構造 主体構造 煉瓦造、一部鉄骨造、鉄筋コンクリート造、木造
    杭・基礎 杭基礎
    外部仕上げ 屋根 チタン金属板 菱葺 t=0.3㎜
    外壁  煉瓦積み(55×105×225㎜)
    開口部 鋼製建具 ステンレス建具
    外構 植栽:芝/舗床:煉瓦 インターロッキング
    内部仕上げ エントランス 煉瓦積み(55×105×225㎜)
    漆喰壁撤去既存煉瓦現し
    一部新規煉瓦蛇腹積み
    天井 PB t=9.5+12.5㎜ EP
    市民ギャラリー 煉瓦積み(55×105×225㎜)
    漆喰壁撤去既存煉瓦現し
    天井 鉄骨梁現し
    鉄筋コンクリート打ち放し
    一部既存スラブ現し
    ライブラリー ナラ材フローリング t=15㎜
    漆喰壁撤去既存煉瓦現し
    天井 野地板現し
    展示室1・2・3・5 着色コンクリートポリッシュ仕上げ
    PB
    t=9.5+合板 t=12㎜ EP
    PB t=12.5㎜EP
    既存コールタール煉瓦壁現し
    天井 準不燃木 t=6㎜ 乱尺張り
    展示室4 ナラ材フローリング t=18㎜
    PB
    t=9.5+合板 t=12㎜ EP
    PB t=12.5㎜ EP
    天井 PB t=9.5+12.5m EP
    主要用途
    美術館
    建主
    弘前芸術創造株式会社
    設計・監理
    建築設計 Atelier
    Tsuyoshi Tane Architects
    田根剛
    設計統括 NTTファシリティーズ
    NTTファシリティーズ東北
    構造設計 大林組
    スターツCAM
    設備設計 森村設計
    設計協力・照明設計 岡安泉照明設計事務所
    施工
    建築 スターツCAM・大林組・南建設共同企業体
    設備 ユアテック
    煉瓦工事 リケ、高山煉瓦建築デザイン
    規模
    敷地面積 3,606.75㎡(カフェ・ショップ棟・公園含む:11,539.07㎡)
    建築面積 1,693.78㎡
    延床面積 3,089.59㎡
    建蔽率 46.97%(許容90%)
    容積率 85.67%(許容400%)
    各床面積 展示室1・4/250㎡、展示室2/210㎡、展示室3/287㎡、展示室5/227㎡、受付・市民ギャラリー/165㎡、
    スタジオA/22㎡、スタジオB/72㎡、スタジオC/12㎡、
    ライブラリー/300㎡
    階数 地上2階
    最高高 15,630㎜
    軒高 9,250㎜
    階高 A棟:1階 5,450㎜
    / 2階 2,775㎜
    B棟:1階 5,450㎜ / 2階 3,610㎜
    天 井 高 2,700㎜~15,100㎜
    工期
    設計期間 2017年7月〜2018年3月
    施+B17工期間 2018年5月着工 2020年2月竣工
    開館 2020年4月11日
    構造
    主体構造 煉瓦造、一部鉄骨造、鉄筋コンクリート造、木造
    杭・基礎 杭基礎
    外部仕上げ
    屋根 チタン金属板 菱葺 t=0.3㎜
    外壁  煉瓦積み(55×105×225㎜)
    開口部 鋼製建具 ステンレス建具
    外構 植栽:芝/舗床:煉瓦 インターロッキング
    内部仕上げ
    エントランス
    煉瓦積み(55×105×225㎜)
    漆喰壁撤去既存煉瓦現し
    一部新規煉瓦蛇腹積み
    天井 PB t=9.5+12.5㎜ EP
    市民ギャラリー
    煉瓦積み(55×105×225㎜)
    漆喰壁撤去既存煉瓦現し
    天井 鉄骨梁現し
    鉄筋コンクリート打ち放し
    一部既存スラブ現し
    ライブラリー
    ナラ材フローリング t=15㎜
    漆喰壁撤去既存煉瓦現し
    天井 野地板現し
    展示室1・2・3・5
    着色コンクリートポリッシュ仕上げ
    PB
    t=9.5+合板 t=12㎜ EP
    PB t=12.5㎜EP
    既存コールタール煉瓦壁現し
    天井 準不燃木 t=6㎜ 乱尺張り
    展示室4
    ナラ材フローリング t=18㎜
    PB
    t=9.5+合板 t=12㎜ EP
    PB t=12.5㎜ EP
    天井 PB t=9.5+12.5m EP
  • シードル工場

    ニッカウヰスキー株式会社蔵

    シードル工場

    煉瓦倉庫を建築した福島藤助の死後、弘前の酒造メーカー社長であった吉井勇が建物を引継ぎ、1954(昭和29)年、朝日シードル株式会社弘前工場を創業する。吉井は1953(昭和28)年にりんご加工品の調査で約2ヶ月欧米各地を視察した後、フランスからの技術者を招き、日本で初めて大々的にシードル(りんごの発泡酒)製造に着手した。現在の美術館のエントランスはラベルの貼り付けや箱詰めを行う「出荷場」、受付周辺はシードル瓶の殺菌・消毒を行う「洗瓶室」、1階の展示室はシードルのタンクが並ぶ「貯蔵室」、2階のライブラリーは原料となるりんごの果汁を絞る「搾汁室」として使用されるなど、当時の建物の利用の記録が現在まで残っている。

  • 実業家・福島藤助

    福嶋家蔵

    実業家・福島藤助

    福島藤助(1871(明治4)年-1925(大正14)年)は、美術館の前身である煉瓦倉庫を建設した弘前生まれの実業家。大工職人であった福島は1896(明治29)年に日本酒の製造業に転身して事業を拡大し、1907(明治40)年に現在の美術館が建つ吉野町への煉瓦倉庫の移築を開始した。現在の美術館棟は1923(大正12)年、カフェ・ショップ棟の一部は1907年頃のものとされる。社長を務めた「福島醸造株式会社」は1921(大正15/昭和元)年には青森県内で第一位の年間酒造量となり、最大で10数棟の工場や倉庫が建てられた。長く残すことが可能な煉瓦造りの建物は福島のこだわりであり、「かりに事業が失敗しても、これらの建物が市の将来のために遺産として役立てばよい」と語ったというその志が、美術館に生まれ変わった現在の建築に受け継がれている。

  • A to Z Memorial Dog

    ©︎Yoshitomo Nara
    Photo: Naoya Hatakeyama

    A to Z Memorial Dog

    2006(平成18)年、煉瓦倉庫で開催された展覧会「YOSHITOMO NARA + graf A to Z」。3度目となった奈良の展覧会には、約900名におよぶボランティアなど、市民と作り上げた展覧会となり、約7万人の来場者が訪れた。その影響は会場である煉瓦倉庫にとどまらず弘前市全体へと及んだ。その後、関わってくれた地域の人たちへの奈良の感謝の気持ちとして制作された《A to Z Memorial Dog》は2007(平成19)年に弘前市に寄贈、煉瓦倉庫前の土淵川吉野町緑地に設置され、長らくこの街のシンボルとして親しまれてきた。煉瓦倉庫が美術館として生まれ変わるに際し、美術館のエントランスに展示され、来館者を出迎えてくれている。

  • シードル・ゴールドの屋根

    Photo: Naoya Hatakeyama

    シードル・ゴールドの屋根

    光輝く「シードル・ゴールド」の菱葺屋根は、煉瓦倉庫改修にあたり新たに作られた美術館のシンボルである。かつてこの場所でシードル(りんごの発泡酒)が製造されていた歴史を次世代に継承するため、シードルの淡い金色から着想された。厚さ0.3m、45cm角のチタン材が約1万3000枚使用されており、光の反射による鮮やかな色合いの変化を見ることができる。

  • 3度の奈良美智展

    提供:NPO法人harappa

    3度の奈良美智展

    煉瓦倉庫が美術館へと変貌を遂げた大きなきっかけとなったのは、弘前市出身の現代美術作家・奈良美智の展覧会である。煉瓦倉庫のオーナー(当時)であった吉野酒造株式会社・吉井千代子社長と奈良との出会いにより、初の大規模巡回展「I DON’T MIND, IF YOU FORGET ME.」が、煉瓦倉庫を最終会場として2002(平成14)年に開催された。地域のボランティアを中心とした実行委員会で運営され、約6万人の来館者を迎えた本展は「奇跡の展覧会」とも評された。その後も、「From the Depth of My Drawer」(2005/平成17年)、「A to Z」展(2006/平成18年)と3度に渡り、奈良の展覧会が開催され、大きな話題となった。奈良は「A to Z」展のカタログにて「A to Zはお花見をする感じ。花が散るように会期も終わるが、その後葉っぱは養分となり、種が落ちる。どこかで花が咲く。」と述べた。まさに弘前れんが倉庫美術館は、そんな思いの継承であり、ひとつ具現化したものといえるのだろう。

  • ミュージアム・ロード

    Photo: Naoya Hatakeyama

    ミュージアム・ロード

    美術館棟とカフェ・ショップ棟の間にある煉瓦の道は「ミュージアム・ロード」と名付けられている。敷き詰められた煉瓦のところどころには、当館の開館前にふるさと納税やプレ会員として寄附をいただいたみなさまの名前が刻印されている。夜になるとライトアップされ、日中とは違う表情を見せる姿もその魅力のひとつ。

  • カフェ・ショップ棟

    Photo: Naoya Hatakeyama

    カフェ・ショップ棟

    当館に隣接するカフェ・ショップ棟の建築設計も、建築家・田根剛が手掛けている。建物正面の煉瓦壁は、現存するものの中で最も古い明治時代のもの。建物自体の老朽化が進んでいたためこの壁以外は新たに建て替えられているが、壁面に合わせた形で木組みを取り入れることで、かつての煉瓦倉庫の雰囲気を継承しつつ、居心地の良い空間が生み出された。建物奥に並ぶ、シードルのタンクが、シードルの工場であったこの場所の記憶と繋がり、天井から下がるペンダントライトなどの要素が、美術館棟の建築とも呼応している。

  • コールタールの壁

    Photo: Naoya Hatakeyama

    コールタールの壁

    展示室の黒い壁面には、コールタールが塗られている。倉庫時代に、防虫・防腐の目的でコールタールが使用されたという。白い「ホワイト・キューブ」の展示空間とは対照的に、黒く、ざらつきのあるこの壁面は、当館の特徴のひとつ。歴史を未来へつなぐ「記憶の継承」のコンセプトが宿っている。

建築デザイン

歴史ある建物の改修は、建築家・田根剛が担当しました。「記憶の継承」をコンセプトに、高度な耐震補強と既存の煉瓦壁を内外無傷で保存する設計により、建物の記憶を継承し、未来の時間へと引き延ばす建築に仕上がりました。屋根は寒冷地においても耐久性と耐食性を備えるチタン材を採用。光の角度によって刻々と移り変わるシードル・ゴールドの屋根は、美術館のシンボルとなり風景に彩りを与えます。

  • 建築デザイン

    © NAOYA HATAKEYAMA

田根剛 [建築家]

田根剛[建築家]

1979年東京生まれ。Atelier Tsuyoshi Tane Architectsを設立、フランス・パリを拠点に活動。2006年にエストニア国立博物館の国際設計競技に優勝し、10年の歳月をかけて2016年秋に開館。また2012年の新国立競技場基本構想国際デザイン競技では「古墳スタジアム」がファイナリストに選ばれるなど国際的な注目を集める。場所の記憶から建築をつくる「Archaeology of the Future」をコンセプトに、現在ヨーロッパと日本を中心に世界各地で多数のプロジェクトが進行中。主な作品に「エストニア国立博物館」(2016年)、「Todoroki House in Valley」(2018年)、「とらやパリ店」(2015年)、「LIGHT is TIME」(2014年)など。フランス文化庁新進建築家賞、フランス国外建築賞グランプリ、ミース・ファン・デル・ローエ欧州賞2017ノミネート、第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞、アーキテクト・オブ・ザ・イヤー2019など多数受賞 。2012年よりコロンビア大学GSAPPで教鞭をとる。
www.at-ta.fr

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